画廊の受付の女性とキス

『絵からあらわれた妖精』

彼女は僕がよくいく画廊の受付をしていました。妖精のような印象のする女性で、まるで絵の中からあらわれたような感じがしないでもありません。
僕は絵を見るのも好きですが、半分はその彼女に会いに行くのが目的になっていました。
たぶん独身だとは思うのですが、まだそこまでプライベートな話しはしたことがなく、画廊ですからもっぱらそこでは絵画の話かあるいは画家の話が主でした。

ちょうどその日は、次の個展の準備をしていました。それを知らずにやってきた僕は、せっかく彼女とあってこのまま帰るのも惜しいような気がして、

「何か手伝うことはないですか」

と彼女にたずねました。

「それじゃ、物置から絵を運ぶのてつだってくれない」

その物置というのは個展会場の二階にあって、彼女といっしょにぼくもそこにあがっていきました。なるほど二階は、大小さまざまな油絵や、彫刻類なども置かれています。まだはじめたばかりで、手伝い甲斐がありそうです。1時間余りの間、僕は一生懸命、作品運びをやりました。終わった頃には全身汗まみれで、たまらず僕は物置で上半身裸になりました。
そこへちょうど彼女がやってきて、

「まあ」

とあわてて手で目を覆いました。
彼女はそのまま1階にもどってしまい、しばらくしてタオルを手にしてあがってきました。
「これで拭いてください」
「ありがとう」
「下に、飲み物も用意してますから、いつでもいらして」
「あの………」
「え」

このチャンスを逃すまいとして僕は、彼女に一歩近づきました。
「きれいですね」

すると彼女は、壁にたてかけられた残っている油絵を見て、

「ああ、この絵ね。そうですね、きれいだわ」
「あ、ちがう、きれいといったのは、きみのことなんだ」

彼女は黙って僕を見返しました。
こちらを見つめるその目は、僕の胸の内をすっかり見抜いているようでした。

いきなり、僕に歩みよったかと思うと、僕の唇に自分の唇をふれあわせました。
彼女はそして、くすりと笑ってから、足を翻して階段をおりていきました。

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